関隆のタクドラ物語(その2)

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おはようございます。

先週に続き、私がイエローキャブやウーバー体験については

次週からお伝えする予定ですので、

昔の私のタクドラ物語を流させていただきます。

もう、お読みいただいた方も多いと思いますが、よろしくお願いします。

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タクドラになって、少しずつ、生活は落ちつき始めたと思っていた。それでも、余裕のある生活には、ほど遠かった。仮に50万の給与をもらったとしても、タクドラは、天引される経費が多すぎた。自己負担となる車両負担費、プール金、高速代、手数料など、多くの額が引かれて、俺の手元に残る額は、いつも、何かの間違いではないかと思うほどだった。

家族と過ごす時間は、相変わらず少ないものの、給料はもちろん、お客様にいただいたチップも、すべてカミさんに渡し、なんとか、生活がやっていける程度には、なり始めていた。

そんなある日、息子が俺のそばに来て、俺の顔を見ないまま言った。「父さんがタクシーの運転手をしているっていうと『クスっ』って笑われるんだ。電車の運転手さんをしてるっていうと、カッコいいって言ってもらえるのにね。なんで、タクシーの運転手さんだと、笑われなきゃあいけないんだろう?」俺は、何も答えてやることができなかった。

悔しさで、胸がいっぱいになった。カミさんも、タクシー運転手の仕事をバカにしていた。また、どうせ、タクシーの仕事も失敗するだろうと思っているようだ。

確かに、普通の会社に勤めるのとは違い、明日の保障は何もなかった。いや、今日の保障さえない。毎日、出庫する時は、ゼロからのスタートだ。事故、違反、クレームなどがないように、タクシーの神様に祈り、タクドラになって、半年ほどの間に積み重ねてきた自分なりのデーターを基に、10万の売上を目標に、ゼロから積み上げていくしかない。

毎日、毎回、不安だけど、やるしかない。誰も助けてくれやしない。そんな仕事だから、世間様に笑われるのだろうか?

タクシー運転手というだけで、下げずまれる感じさえする。お客様の中には『運ちゃん』呼ばわりをし、高圧的にものを言う奴もいる。俺たちタクドラのことを、奴隷のように思い、少しでも気に入らないことがあれば、クレームをおこすたちの悪いお客様もいる。

タクシー運転手という職種は、小学生でさえ、あこがれを持たない。仕事に失敗して「食えなくなったからタクシーに乗る」という意識が強い。仕事がなくなり、失業者の受け皿業界というのが社会の常識だ。

タクドラの仕事は、楽ではない。タクドラの仕事は、いつも不安との戦いがあったが、勝つ楽しさもあった。タクドラの仕事は、すべてが自己責任だ。でも、やるしかない。タクシーは公共交通機関のひとつだという人がいる。とんでもない。公共交通機関の運転手なら、給与も身分も保証してくれるというのか?公共交通機関だと言いながら、国はタクシー乗務員を助けることもない。

「無事故・無違反・ノークレーム」これを守らないと、稼ぎの取れるナイトシフトから外される。一度、枠から外されると、また信用をえて、シフトに戻るのは容易ではない。夜勤シフトになって、体に残る疲れは、今までよりずっとキツい。家族と離れ、たったひとりで、必死で稼いでいる感じがして気が滅入る。今、俺自身が「何かをしたい」「何を食べたい」とさえ思わない。安い牛丼屋の弁当でも、1日3食食べられれば十分だ。

でも、もっと稼ぎたかった。子供たちの学費が必要だった。こうしてタクドラになり、ハンドルを握るようになって生活ができるようになった。行き場のない俺を救ってくれたタクシーへの感謝の気持ちは、変わらない。

タクシーは、俺を裏切らない。

でも、「ハンドルを離す日」を待ち望んでいる自分がいた。

子どもたちを、大学に行かせてやりたい。事業の責任を押し付けられ、2度も自己破産をせざるを得なかった俺には、大学の奨学金を申請する権利もなかった。奨学金の保証人が、自己破産したばかりの父親では申請が認められるはずもない。

なんとかタクシーで金を稼ぎ、金を貯めて大学を出してやらなければならない。だから、必死でタクシーで稼ぐ。でも、あと9年はかかる。あと9年もこのしんどさを続けなければならない。子どもたちが友達と同じように、大学を出て、就職するまで、何としても頑張る。そして、その時が来たら、ひとりぼっちのタクドラ生活を終える日も来る。

今日も一日終わった。無事故無違反、ノークレームだった。朝焼けの中、疲れた体で会社へ帰った。一日が終わるたびに、ハンドルから手を離す日が、一日ずつ近づいてくることだけが、俺の心を少し軽くしてくれる。

ハンドルから手を離す日を一日、一日、待ち望みながら、タクドラを続けていた。

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